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10話 最強のペットと、少女たちの困惑

Author: みみっく
last update publish date: 2025-09-26 09:00:32

 ブロッサムが目を丸くして叫んだ。その声には、信じられないという感情がにじみ出ている。

「お風呂があるの?! 普通、お風呂なんて貴族の屋敷くらいにしかないわよ!」

 その反応に、そらは軽く肩をすくめた。この世界の常識とはかけ離れた設備なのだろう。

「まぁ、うちのは手作りだから!」

 屋敷のお風呂は職人が作り、豪華なものだろう。だが、ここで作った風呂は魔法で組み立てただけの簡素なものだ。しかし、この簡素さも、異世界では贅沢なのだろう。

「お湯はどうしたのよ?」

 驚きを隠せないブロッサムが、前のめりになり尋ねる。大量の湯をどう確保したのか、気になっているようだった。

「魔法で水を出して、魔法で温めただけだよ」

 ここで変に誤魔化しても、今後一緒に過ごす可能性がある。そらは正直に説明することにした。

「……魔力が普通は持たないと思うけれど?」

 ブロッサムは頭の回転が速く、気になることはすぐ聞くタイプらしい。じっとこちらを疑うような視線を向けてくる。彼女の瞳には、理論的な思考が透けて見えた。

(えっ、そんなことで魔力が枯渇するのか……そりゃ不便だな)

 そらの魔力量は膨大で、まだまだ余裕がある。しかし、それを悟られると面倒なことになりそうだ。彼の能力は、この世界の常識をはるかに逸脱している。

「今日は特別だよ。頑張ってくれたみんなの為に、ボクも頑張りました!」

 あえて曖昧な言い方でごまかす。

 そのとき、エルが嬉しそうに微笑みながら言った。その素直な感謝の言葉が、そらの心に温かさを灯す。

「ありがとね、そらくん!」

「うん。ちょうど遠くに狩りに行く予定もあったし、風呂の準備もしておいたんだー」

 そらも微笑みを返し、続けて言う。

「着替えも用意しておいたから、よかったら着てね」

 ブロッサムは気になったような表情をしたが、言葉にはしなかった。彼女の瞳は、まるで何かを推し量るように、そらの手元や顔を、一瞬見つめていた。

「どこで用意したのよ……いや、聞かないでおこう」と、そう言いたげな顔で、少し視線をそらした。彼女の頭の中では、既にあらゆる可能性が巡っているのだろう。

 少女たちは順番にお風呂を済ませ、不満もなく、仲良く並んでベッドに横になった。湯上がりの体からは、石鹸の微かな香りが漂う。

 ──が、俺はなぜか落ち着かない。異世界での初めての夜、少女たちと過ごすことに、どこか不思議な高揚と、そして彼らの命を預かることになったという責任感が入り混じっていた。

♢嵐の予感、ドラゴンの再来

 翌朝──

 昨日の夕飯の残りを温めていると、突然、空から巨大な影が降りてきた。地響きのような音が、静かな森に響き渡る。その音は、まるで巨大な岩が転がってくるかのように、大地を震わせた。

「……え? なにごと!?」

 上空から降り立つのは、漆黒の鱗を持つ巨大なドラゴンだった。朝日を浴びて鈍く光るその巨体は、畏怖の念を抱かせる。

「我が主~! 良い獲物が獲れましたぞ~!」

 ──牛を数頭、悠然と咥え、さらに強靭な足にも掴んで飛んできたのだ。その光景は、あまりにも現実離れしていた。まるで神話の光景が、目の前に現れたかのようだ。

「……主って誰っ!? え? 牛……!?」

 その信じがたい光景に、少女たちも一斉に叫んだ。

「「「ド、ド、ドラゴン!!!」」」

 ブロッサムは、慌てたように叫ぶ。その声は、恐怖に引きつっていた。

「皆、逃げるわよっ!」

 しかし、ドラゴンは慌てる様子もなく、ゆっくりと話し続ける。その口から発せられる言葉は、明らかに彼らの理解を超えていた。

「前回、絶対的な力の差を思い知らされましたので……その……」

 ……つまり、勝手に主従関係になったらしい。

(いや、困るんだが……。目立つし、ドラゴンだし)

 そらは頭を抱えたくなる衝動に駆られた。こんな巨大な存在と一緒にいるところを見られたら、間違いなく面倒なことになる。しかも、この牛……。

(どこの牧場から拐ってきたんだよ!? それに、1頭で十分すぎるっての。新鮮で、まだ温かいし……)

 一瞬、生々しい肉の感触が脳裏をよぎり、そらは軽く身震いする。とはいえ、アイテムボックスに収納しておけば保存もできるかもしれない。

 ……で、どうするよ、このドラゴン。

 少女たちへの説明も問題だな……。うぅーん……。

 そらは咄嗟に言った。

「このドラゴンは、うちで飼っているペット! そう、ペットなんだよ」

 少女たちは、明らかに納得していない様子で顔を見合わせる。(さっきの会話が全部聞こえてたし……)ブロッサムの顔には、「本気で言ってるの?」という困惑が色濃く浮かんでいた。

 ブロッサムは、半信半疑で返す。

「そ、そうなんだ……」

 エルは好奇心の方が勝ったようで、目を輝かせる。その無邪気な瞳は、目の前の異常な光景を、ただ純粋な「すごいもの」として受け止めているようだった。

「へー、すごいペットを飼っているねー! かっこいー!」

 ステフは……無言。戸惑いすぎて何も言えなくなっているようだった。彼女の口は半開きになり、瞳は虚ろなままだった。

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